前の記事では、ダイアトニックチームの中でメンバーを入れ替える「代理コード」を学びました。今回は、いよいよチームの外から助っ人を呼びます──ノンダイアトニックコード(キーに含まれないコード)の世界です。
⚽ チーム外からの「助っ人」
ダイアトニックの記事で学んだ7人のチームメイト──これが「ダイアトニックコード」でした。代理コードの記事では、チーム内で選手を入れ替えました。でも、サッカーの試合には「レンタル移籍」や「外国人助っ人」がいますよね。チームの基本戦術はそのままに、ここぞという場面だけ、チーム外のスペシャリストを投入する。
ノンダイアトニックコードとは、まさにそういう存在です。キー(チーム)の外にいるコードを、一時的に借りてくる。だから「借用和音」とも呼ばれます。
ダイアトニックコードだけの進行は「安心」。でも安心だけではドラマが足りないこともある。助っ人は、進行に一瞬のサプライズをもたらします。
🌶️ 助っ人は「スパイス」──使いすぎに注意
ノンダイアトニックコードは、料理でいうスパイスのようなものです。
カレーにスパイスを入れすぎると、何の味かわからなくなる。でも、いつもの肉じゃがにほんのひと振りの黒コショウを加えると、「おっ」と思わせる味になりますよね。
ノンダイアトニックコードも同じです。ダイアトニック進行の中に1〜2か所だけ混ぜるのがコツ。多すぎると「キーがわからない」状態になってしまいます。
目安は、4〜8小節の進行の中に1つだけ。まずはこのバランスから始めましょう。
🎯 覚えてほしいのは3つだけ
ノンダイアトニックコードは種類が多く、理論書では何十ページも費やされることがあります。でも、ポップスやロックで実際に頻出するパターンは限られています。
この記事では、初心者が今日から使える3つの助っ人に絞って紹介します。
1. ♭VII(フラットセブン)──ロックの定番
2. IVm(サブドミナントマイナー)──切なさの決定打
3. V/V(セカンダリードミナント)──「帰りたい力」の連鎖
🔥 助っ人① ♭VII(フラットセブン)──ロックの定番
Cメジャーキーでの♭VIIは B♭ です。
通常、Cメジャーキーの7番目のコードは Bdim(ダイアトニックで学びましたね)。♭VIIは、そのルートを半音下げたB♭メジャーコード。ダイアトニックには存在しないコードです。
C → B♭ → F → C
この進行を弾いてみると、B♭が入った瞬間にぐっとロックっぽい手触りになります。
聴いてみよう: ビートルズの「Hey Jude」を思い出してください。あの有名な「Na na na na…」のコーダ部分の進行は、Fメジャーキーで F → E♭ → B♭ → F(I → ♭VII → IV → I) です。Cメジャーに置き換えると C → B♭ → F → C──まさにこの記事で紹介した進行そのもの。あの力強く包み込むような高揚感は、♭VIIが生み出しているのです。
♭VIIは、同主調のマイナーキーから借りてきたコードです。Cメジャーに対するCナチュラルマイナー──同じルート音を持つマイナーキーのことを「同主調」と呼びます。同主調のマイナーキーにはB♭が自然に存在するので、それを一時的に借りているというわけです。
🌧️ 助っ人② IVm(サブドミナントマイナー)──切なさの決定打
Cメジャーキーでの IVm は Fm です。
通常、CメジャーキーのIV(4番目)はFメジャー。ここをFマイナーに変えると、明るかった浮遊感が一瞬だけ暗く沈む。この「一瞬の翳り」が、ポップスでは泣きのポイントとしてよく使われます。
C → F → Fm → C
F → Fm の流れを弾いてみてください。Fで視界が開けた直後に、Fmでふっと影が差す。この対比が、聴き手の心を掴みます。
聴いてみよう: オアシスの「Don't Look Back In Anger」は、IVmの名使用例です。この曲はまさにCメジャーキー。プリコーラス(サビ前の盛り上がり部分)で、「So I start a revolution from my bed...」と歌いながら F → Fm → C の進行が繰り返されます。FからFmへの一瞬の翳りが、あの切なくも力強い高揚感を生み出しています。
※ 原曲では、Fm にもう1音足した「Fm6」というコードが実際には使われています。基本の役割と切なさは Fm と同じですが、6th の音が加わることで、より深い余韻が生まれます。OtoTheory の「発展」タブで Fm → Fm6 への拡張を確認できますよ。
IVmも、♭VIIと同じく同主調のマイナーキーからの借用です。Cナチュラルマイナーには Fm が自然に存在します。メジャーキーの進行にマイナーの感情を一滴だけ混ぜるテクニック──映画のサウンドトラックでも頻出します。
⚡ 助っ人③ V/V(セカンダリードミナント)──「帰りたい力」の連鎖
これは少しだけ仕組みが複雑ですが、効果は絶大です。
コード進行の記事で、V(ストライカー)は「I(キャプテン)に帰りたい力」を持つと学びました。では、Vに向かって帰りたい力を持つコードを作ったらどうなるでしょう?CメジャーキーでのVはG。Gに向かう「帰りたい力」を持つコードは──D(またはD7)。これがV/V(ファイブ・オブ・ファイブ)、いわゆるセカンダリードミナントです。いわば、ストライカー(V)に強いパスを出す偽ストライカー。チーム外から一瞬だけ現れて、本物のストライカーの決定力を倍増させます。
C → D → G → C
普通の C → G → C だと「家→クライマックス→家」ですが、Dを挟むと 「家→加速→クライマックス→家」 になります。G(ストライカー)が登場する前に、助走をつけてあげるイメージです。
D に含まれるF#はCメジャーキーには存在しない音です。これは、一瞬だけ「Gメジャーキー」の世界からコードを借りてきたもの。Gを主役(I)に見立てることで、Gへの引力が V→I の力を持つのです。この「一瞬だけ別のキーの世界を借りる」テクニックが、セカンダリードミナントの正体です。
聴いてみよう: ビートルズの「All You Need Is Love」のサビを思い出してください。Gメジャーキーで、「All you need is love」と歌うあの部分の進行は G → A → D(I → V/V → V) です。AコードはGメジャーキーのダイアトニックでは Am(マイナー)のはず。それがメジャーで鳴っている──これがセカンダリードミナントです。Cメジャーに置き換えると C → D → G、まさにこの記事で紹介した進行と同じ。あの「love」への力強い着地感は、V/V が生み出す「加速」のおかげです。
🎨 3つの助っ人を比較する
| 助っ人 | Cメジャーでの例 | 効果 | 聴いてみよう |
|---|---|---|---|
| ♭VII | B♭ | ロックっぽい力強さ | Hey Jude「Na na na na…」(The Beatles) |
| IVm | Fm | 一瞬の切なさ、泣きのポイント | Don't Look Back In Anger(Oasis) |
| V/V | D(D7) | 次のコードへの引力が倍増 | All You Need Is Love(The Beatles) |
3つとも「ダイアトニックの外」から来ていますが、性格はまったく違います。♭VIIは力強さ、IVmは切なさ、V/Vは推進力。目的に合わせて選んでください。
まずはIVm(サブドミナントマイナー)から試すのがおすすめ。F → Fm → C と弾くだけで、「おっ、プロっぽい」と感じるはずです。
📚 この先に広がるノンダイアトニックの世界
この記事で紹介した3つは、ノンダイアトニックコードの「入門編」です。実は、チームの外にはまだまだたくさんの助っ人がいます:
| 名前 | ひとこと |
|---|---|
| ♭VI(フラットシックス) | 映画音楽でおなじみの壮大な響き |
| ♭III(フラットスリー) | ♭VIIと組み合わせてロック感をさらに強化 |
| 裏コード(トライトーン・サブスティテューション) | ジャズの定番テクニック。V7の代わりに♭II7を使う |
| ピカルディの三度 | マイナーキーの最後にメジャーコードで終わる古典的な手法 |
これらは将来の記事で紹介する予定です。まずは今回の3つをしっかり使いこなしてから、少しずつ引き出しを増やしていきましょう。
🎛️ OtoTheoryでノンダイアトニックコードを体験する
OtoTheoryでは、ノンダイアトニックコードを使ったときに「間違い」ではなく「スパイス」として観察してくれるので、安心して実験できます。
* ビルド画面のインサイトエンジン:コード進行を作った状態で既存のコードチップをタップすると、画面上部にインサイトエンジンが表示されます。ここでダイアトニック以外のコードを配置すると、「キーの外側の音を使っていて、スパイスになっています」のようにその特徴を自動で教えてくれます。借用和音やセカンダリードミナントに該当する場合は、その理論的な背景も表示されます
* インサイトタブ:画面下部のタブバーにある「インサイト」タブでは、作成した進行の全セクション(Verse・Chorus・Bridgeなど)を俯瞰できます。そこでコードを選択すると、そのコードの代理コードや借用和音の候補を一覧で表示。それぞれをプレビューで試聴でき、気に入ったものはそのまま既存のコードと入れ替えることができます
* フレットボード表示:ノンダイアトニックコードの構成音をフレットボードで見ると、「あ、この音だけキーの外にいるんだ」と一目でわかります。たとえばCメジャーキーで D を配置すると、F#だけがキー外の音としてハイライトされます。どの音が「スパイス」なのかを視覚的に確認できます
✅ まとめ
ノンダイアトニックコードは、ダイアトニックチームの「外」から一時的に借りてくる助っ人。ダイアトニック進行の中に1つだけ混ぜることで、進行に「一瞬のサプライズ」を加えられる。
* ♭VII(フラットセブン):ロックっぽい力強さ。Hey Jude「Na na na na…」のあの高揚感
* IVm(サブドミナントマイナー):一瞬の切なさ。Don't Look Back In Angerのあの翳り
* V/V(セカンダリードミナント):次のコードへの「帰りたい力」を倍増。All You Need Is Loveのあの加速感
* まずは F → Fm → C を弾いてみるのが最も効果的な第一歩
* 使いすぎないこと。4〜8小節に1つがスパイスの黄金比
次の記事では、コードのベース音だけを変えることで進行を滑らかにするテクニック──オンコード(スラッシュコード)を学びます。

