前の記事では、トライアドに1音足すだけで進行の空気感が変わることを体験しました。今回は、コードそのものを同じ役割を持つ別のコードに入れ替えるテクニック──代理コードを学びます。
⚽ 「同じポジション」のチームメイト
ダイアトニックの記事で、7つのコードをサッカーチームに例えました。コード進行の記事では、そのチームが3つの役割グループに分かれていることを学びました。| 役割 | メンバー | 担当 |
|---|---|---|
| トニック(T) | I(キャプテン)、iii(リンクマン)、vi(副キャプテン) | 安定・着地 |
| サブドミナント(S) | IV(攻撃的ミッドフィルダー)、ii(内省的ミッドフィルダー) | 展開・浮遊 |
| ドミナント(D) | V(ストライカー)、vii°(スペシャリスト) | 緊張・帰りたい力 |
代理コードとは、同じ役割グループの中で、メンバーを入れ替えること。サッカーでいえば「同じポジションの選手交代」です。
ストライカーを別のストライカーに交代しても、チームの戦術は変わらない。でも、プレースタイルは変わる。代理コードは、まさにこれと同じです。
🔄 なぜ入れ替えが成立するのか?
同じ役割グループのコードが入れ替え可能な理由は、構成音が2つ重なっているからです。
コードの記事で学んだ3音のうち、2音が共通するということは、響きの土台が同じということ。だから入れ替えても、進行の「ドラマ」が壊れません。Cメジャーキーで見てみましょう:
| 入れ替え | コード① | コード② | 共通する音 |
|---|---|---|---|
| I ↔ vi | C(ド・ミ・ソ) | Am(ラ・ド・ミ) | ド、ミ |
| I ↔ iii | C(ド・ミ・ソ) | Em(ミ・ソ・シ) | ミ、ソ |
| IV ↔ ii | F(ファ・ラ・ド) | Dm(レ・ファ・ラ) | ファ、ラ |
| V ↔ vii° | G(ソ・シ・レ) | Bdim(シ・レ・ファ) | シ、レ |
2つの音が重なっているから、聴いた印象は「似ているけど、ちょっと違う」。この「ちょっと違う」が、進行の表情を変える鍵です。
そしてもうひとつ。コードが変わるということは、ルート音(ベースの音)も変わるということ。たとえば C→F(ド→ファ)というジャンプする動きが、C→Dm(ド→レ)という滑らかな階段状の動きに変わります。代理コードは表情だけでなく、ベースラインの流れにも変化をつけられるテクニックです。
🎭 代理コードの実践──定番3パターン
パターン①:I → vi(明るい→切ない)
最もよく使われる代理です。キャプテン(I)を副キャプテン(vi)に交代すると、明るい安定感が切なさを帯びた安定感に変わります。
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元の進行: C → F → G → C
代理バージョン: C → F → G → Am
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最後のCをAmに変えただけ。ドラマの構造(T(トニック)→S(サブドミナント)→D(ドミナント)→T(トニック))はまったく同じなのに、エンディングの表情が「ハッピーエンド」から「余韻のある終わり」に変わります。
ポップスで「サビの最後だけ切なくしたい」というとき、この I → vi の入れ替えが定番の手法です。
パターン②:IV → ii(浮遊→内省)
サブドミナントの中での入れ替え。IV(F)の開放的な浮遊感が、ii(Dm)に変わると内に向かう、考え込むような雰囲気になります。
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元の進行: C → F → G → C
代理バージョン: C → Dm → G → C
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Fの「ぱっと視界が広がる感じ」と、Dmの「ちょっと立ち止まって考える感じ」。どちらもサブドミナントだけど、性格が対照的です。
パターン③:V → vii°(王道→スリリング)
ストライカー(V)をスペシャリスト(vii°)に交代。V(G)の堂々とした緊張感が、vii°(Bdim)に変わると不安定でスリリングな緊張感になります。
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元の進行: C → F → G → C
代理バージョン: C → F → Bdim → C
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これはかなり上級者向けの色合い。使いすぎると不安定になりますが、ここぞという場面で1回使うと、聴き手をハッとさせます。
※ トライアドのBdimはクラシック寄りの響きになるため、ポップスではあまり単体で使われません。実際の楽曲では、次のセクションで紹介する7thコードのBm7♭5にするか、Gのベース音だけをBに変えたG/B(オンコード)として使うのが定番です。
🎨 代理で進行を「着替えさせる」
代理コードの本質は、進行の構造(ドラマ)を壊さずに、表情だけを変えること。洋服の着替えに似ています。
いろんな進行で「着替え」を試してみましょう:
| 元の進行 | 代理を使ったバージョン | 変わったこと |
|---|---|---|
| C → F → G → C | Am → F → G → C | 出だしが切なくなった |
| C → F → G → C | C → Dm → G → C | 中盤が内省的になった |
| C → G → Am → F | C → G → Am → Dm | 最後が柔らかくなった |
| C → Am → F → G | C → Am → Dm → G | サブドミナントが内向きに |
どのバージョンも、T(トニック)→S(サブドミナント)→D(ドミナント)→T(トニック)の骨格は同じ。「同じストーリーを、違う語り口で話す」感覚です。
コード進行の記事で作った進行を、代理コードで着替えさせてみてください。1つの進行から、何通りものバリエーションが生まれます。
🔗 7thコードとの組み合わせ
前の記事で学んだ7thコードと代理コードを組み合わせると、さらに表現の幅が広がります。| 元のコード | 代理 | 7th化した代理 | 効果 |
|---|---|---|---|
| C | → Am | → Am7 | 柔らかく切ない着地 |
| F | → Dm | → Dm7 | ふわっとした内省 |
| G | → Bdim | → Bm7♭5 | じわっとした緊張 |
| Am | → C | → Cmaj7 | おしゃれな安定に変換 |
代理で「表情」を変え、7thで「質感」を加える──この2つを組み合わせることで、たった7つのダイアトニックコードから、驚くほど多彩な進行が生まれます。
🎛️ OtoTheoryで代理コードを体験する
OtoTheoryでは、ここまで学んだ代理コードの仕組みを「置き換え」という機能名で提供しています。音楽理論の教科書では「代理コード」と呼びますが、アプリでは「同じ役割のコードに置き換える」という操作そのものに焦点を当てて、より直感的な名前にしています。
* ビルド画面のインサイトエンジン「置き換え」タブ(Pro機能):コード進行を作った状態で既存のコードチップをタップすると、画面上部にインサイトエンジンが表示されます。「置き換え」タブを選ぶと、そのコードと同じ和声機能を持つ置き換え候補がカードで表示されます。たとえば Am をタップすると「同じトニック機能、明るく」「同じトニック機能、軽やかに」といった提案が並びます。試聴ボタンで音を確かめて、気に入ったら「入替」ボタンをタップするだけ──音楽を止めずに、コードを即座に試せます。ここで提案されるのは、この記事で学んだダイアトニック内の同機能コード同士の入れ替えそのものです
* インサイトタブの「コードの置き換え」セクション:画面下部のタブバーにある「インサイト」タブでは、置き換えをより幅広く探索できます。作成した進行の全セクション(Verse・Chorus・Bridgeなど)のコードチップが一覧表示され、任意のコードを選ぶと代理コードだけでなく、7th拡張や関係調のコードも含む置き換え候補が詳細な説明付きで提案されます。たとえば Am を選ぶと「Am7:ナチュラルマイナー7th」「Am6:ドリアンカラーのマイナー6th」「C:同じ音を持つ関係調のメジャー」のように、使用例の楽曲名(Stairway to Heaven、Smooth など)まで表示。試聴して「置換」ボタンで即座に入れ替えられます
* フレットボード表示:元のコードと置き換え候補の構成音をフレットボード上で見比べれば、「2音が共通している」ことが視覚的に確認できます
✅ まとめ
代理コードは、進行の「ドラマ」を壊さずに「表情」だけを変えるテクニック。同じ役割グループのコードは構成音が2つ重なっているから、入れ替えても自然に響く。
* トニック代理(I ↔ vi ↔ iii):安定感の中で、明るさ↔切なさ↔微妙な色彩を切り替え
* サブドミナント代理(IV ↔ ii):開放的↔内省的な浮遊感を切り替え
* ドミナント代理(V ↔ vii°):王道の緊張↔スリリングな緊張を切り替え
* 7thコードと組み合わせれば、バリエーションはさらに倍増する
* まずはI → vi の入れ替えから試してみるのが最も効果的な第一歩
次の記事では、ダイアトニックチームの外から助っ人を呼ぶ──ノンダイアトニックコード(借用和音)の世界に踏み出します。

