前の記事では、理論を武器にして耳コピする方法を学びました。でも、コピーだけでなく自分で曲を作りたいと思ったとき、ダイアトニックチームのメンバーをただ並べるだけでは、曲としてのコード進行にはなかなかなりません。足りないのはドラマ──コードの流れに「起承転結」を持たせる考え方です。
🎬 コード進行は「ストーリー」
コード進行を、映画やマンガのストーリーに置き換えて考えてみましょう。
* 良いストーリー: 日常 → 旅立ち → 困難 → 解決 → 帰還。起伏があるから引き込まれる
* 退屈なストーリー: ずっと日常。何も起きない。ずっと同じ場所にいる
コード進行もまったく同じです。安定 → 動き → 緊張 → 解決──この流れがあるから、聴く人の心が動くのです。
では、コードに「安定」「動き」「緊張」「解決」の役割を与えているのは何でしょうか? それが、ダイアトニックの記事で学んだキャプテン・ミッドフィルダー・ストライカーです。
⚽ ドラマの骨格──スリーコードで物語を作る
ダイアトニックの記事で、チーム内の3つの役割を学びました:* 🏠 キャプテン(トニック / 1番目): 安定。「家」。ストーリーの始まりと終わり
* 🎯 ミッドフィルダー(サブドミナント / 4番目): 動き。「旅立ち」。家から離れる浮遊感
* ⚡ ストライカー(ドミナント / 5番目): 緊張。「クライマックス」。家に帰りたい強い力
この3つだけで、すでに物語が作れます:
パターン1: 王道の起承転結
C(1番目)→ F(4番目)→ G(5番目)→ C(1番目)`
🏠 家 → 🎯 旅立ち → ⚡ クライマックス → 🏠 帰還
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最もシンプルで、最も力強い。ロックンロール、ブルース、カントリーの名曲の多くは、このスリーコードだけで成立しています。
パターン2: いきなり緊張
C(1番目)→ G(5番目)→ F(4番目)→ C(1番目)`
🏠 家 → ⚡ いきなり緊張 → 🎯 少し和らぐ → 🏠 帰還
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ストライカーが先に来ることで、冒頭からグッと引き込まれる。サビの始まりでよく使われるパターンです。
パターン3: 家にはすぐ帰らない
C(1番目)→ F(4番目)→ G(5番目)→ F(4番目)`
🏠 家 → 🎯 旅立ち → ⚡ クライマックス → 🎯 まだ旅の途中…
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最後に家に帰らず、ミッドフィルダーで終わる。次のセクションへの「橋渡し」に使えるパターンです。「まだ終わらない」という期待感が生まれます。
スリーコードだけで、こんなに違ったドラマが作れる。コード進行とは、コードの「順番」と「役割」で物語を設計することです。
🎭 チームの残り4人を活かす
スリーコード(1番目・4番目・5番目)がドラマの骨格。では、ダイアトニックチームの残り4人──2番目・3番目・6番目・7番目はどう使えばいいのでしょうか?
6番目(vi)── サブメディアント:「副キャプテン」
Cメジャーキーなら Am。
AmはCと構成音を2つ共有しています(C・E)。だからキャプテン(C)の代わりに「もう一人の安定」として使えます。ただしマイナーコードなので、明るい安定ではなく、切ない安定になる。サッカーでいえば、キャプテンが退いたときにチームをまとめる副キャプテンのような存在です。
ポップスでは、この「明るい安定(C)↔ 切ない安定(Am)」の対比がドラマの大きな武器です。
2番目(ii)── スーパートニック:「内省的なミッドフィルダー」
Cメジャーキーなら Dm。
DmはF(4番目)と構成音を2つ共有しています(F・A)。だからミッドフィルダー(F)の代わりや前置きに使えます。Fが「外に出る開放感」なら、Dmは「心の中で揺れる内省感」。
Dm → G(2番目 → 5番目)の動き、いわゆる「ツー・ファイブ」は、ポップスでもジャズでも非常によく使われるパターンです。
3番目(iii)── メディアント:「リンクマン」
Cメジャーキーなら Em。
Emはキャプテン(C)ともストライカー(G)とも構成音を共有する、チームの中でも多くのメンバーと繋がれる万能な存在です。単体で主役を張ることは少ないですが、コードとコードの間を滑らかに繋ぐリンクマンとして力を発揮します。
たとえば Am → Em の流れは、マイナー同士が連なる切なさの深まりを演出します。王道進行(F → G → Em → Am)では、3番目(Em)が6番目(Am)への自然な着地を作る重要な中継点になっています。
7番目(vii°)── リーディングトーン:「不安定なスペシャリスト」
Cメジャーキーなら Bdim。
ディミニッシュコードは独特の不安定な響きを持っています。非常に強い緊張感があるため、ストライカー(G)と似た「帰りたい力」を持ちますが、響きが鋭すぎてポップスではあまり出番がありません。
ただし、クラシックやジャズでは頻繁に登場しますし、ポップスでも経過的に一瞬だけ使うことで、意外な緊張感を演出できます。「普段はベンチにいるけど、ここぞという場面で投入するスペシャリスト」のような存在です。
📐 進行のドラマを設計する──3つの視点
ここまで学んだことを整理すると、コード進行のドラマを作る視点は3つあります:
視点1: 「家→旅→帰還」の配置を決める
どこで家(トニック)を出て、どこでクライマックス(ドミナント)を置いて、いつ帰ってくるか。これがストーリーの骨格です。
* サビの頭で家(C)に帰る → 解放感
* サビの頭でストライカー(G)を置く → 冒頭から引き込む
* Aメロの終わりでストライカー(G)を置いてサビに繋ぐ → 期待感
視点2: 明るい安定 vs 切ない安定
1番目(C)と6番目(Am)の使い分け:
* C → 明るい着地。「やった!」
* Am → 切ない着地。「あぁ…」
同じ進行でも、着地をCにするかAmにするかで、曲の感情がまったく変わります。
視点3: 動きの色を変える
4番目(F)と2番目(Dm)の使い分け:
* F → 開放的な浮遊感。外に出る
* Dm → 内省的な揺れ。心の中で動く
サビ前はFの開放感、Aメロの静かな展開はDmの内省感、という使い分けができます。
🔑 有名な進行パターンを知っておく
ここまでの考え方を使って、よく使われる進行パターンを見てみましょう。すべてCメジャーキーの例です:
| パターン名 | 進行 | ドラマの特徴 |
|---|---|---|
| スリーコード | C(1)→ F(4)→ G(5)→ C(1) | シンプルで力強い起承転結 |
| ポップパンク定番 | C(1)→ G(5)→ Am(6)→ F(4) | 明→緊張→切ない→浮遊。万能 |
| 王道進行 | F(4)→ G(5)→ Em(3)→ Am(6) | 旅立ちから始まる切ないドラマ |
| カノン進行 | C(1)→ G(5)→ Am(6)→ Em(3)→ F(4)→ C(1)→ F(4)→ G(5) | 長い物語。パッヘルベルのカノンから |
| 小室進行 | Am(6)→ F(4)→ G(5)→ C(1) | 切なさから始まり明るさへ向かう |
| ツー・ファイブ・ワン | Dm(2)→ G(5)→ C(1) | 内省→緊張→解決。ジャズの基本 |
これらは「暗記するもの」ではなく、「なぜ気持ちいいのか」を理解するものです。キャプテン・ミッドフィルダー・ストライカーの配置、副キャプテン(6番目)やリンクマン(3番目)の使い方──それが分かれば、有名パターンの「仕組み」が見えてきます。そして、仕組みが分かれば自分でアレンジできるようになります。
🎨 キーやスケールを変えて、同じドラマを移植する
ダイアトニックの記事で、「キーが変わってもチームの形は同じ」と学びました。コード進行でも同じことが言えます。たとえば「ポップパンク定番(1→5→6→4)」:
| キー | 進行 |
|---|---|
| Cメジャー | C(1)→ G(5)→ Am(6)→ F(4) |
| Gメジャー | G(1)→ D(5)→ Em(6)→ C(4) |
| Eメジャー | E(1)→ B(5)→ C♯m(6)→ A(4) |
コード名は変わっても、ドラマの構造(明るい安定→緊張→切ない安定→浮遊感)は完全に同じです。
さらに、スケールの記事で学んだように、スケールを変えればチームメンバーが変わります。同じ「1→5→6→4」でも、ドリアンスケールやミクソリディアンスケールで試すと、まったく違った雰囲気のドラマが生まれます。
🎛️ OtoTheoryでコード進行を体験する
OtoTheoryでは、コード進行のドラマを計算不要で、耳と目で設計できます。
* コード進行ビルダー:キーとスケールを選ぶと、ダイアトニックコードが選択肢に表示されます。コードをタップして並べるだけ。グルーヴに乗せて再生すれば、自分が作った進行が「曲」として鳴るのを体感できます。まずはスリーコード(1番目・4番目・5番目)だけで進行を作り、次に6番目や2番目を加えてドラマがどう変わるか試してみてください
* インサイトエンジン:次に置くコードの候補を提案してくれます。各候補には「vi→IVで切なさを演出」「V7で強いドミナント感」のように、そのコードが進行の中でどんな理論的役割を果たすのかが表示されます。提案を試しながら、なぜそのコードがここに合うのかを自然に学べます
* キー&スケール提案:コード進行を作っていると、現在設定しているキーやスケールよりも適合率の高いキー・スケールの組み合わせをOtoTheoryが提案してくれることがあります。「自分ではCメジャーのつもりだったけど、実はDドリアンの方がしっくりくる」──そんな発見が、あなたの音楽の幅を広げてくれます
✅ まとめ
コード進行=コードの並びに「ドラマ」を設計すること。安定→動き→緊張→解決の流れが、聴く人の心を動かす。
* ドラマの骨格はスリーコード: キャプテン(1番目)→ ミッドフィルダー(4番目)→ ストライカー(5番目)
* 6番目(vi)は副キャプテン──キャプテンに代わる「切ない安定」
* 2番目(ii)は内省的なミッドフィルダー、3番目(iii)は滑らかなリンクマン
* 7番目(vii°)はここぞのスペシャリスト
* 有名な進行パターンは「暗記」ではなく「仕組みの理解」。仕組みが分かれば自分でアレンジできる
* キーやスケールを変えても、ドラマの構造は移植できる
コード進行に使えるコードの幅をもっと広げたい? コードの種類を広げよう では、7th・sus・add など、コードの種類を広げて表現力を高める方法を学びます。

