OtoTheory
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耳コピの科学

感覚を理論で磨く、音の聴き方トレーニング

8min更新日 2025-11-20記事 7

1) 耳コピは、本当はそこまで「才能頼み」の技じゃない

好きな曲をコピーしようとして、

* 何度も巻き戻して

* 指板をウロウロして

* 「なんとなくそれっぽい」けど、本物とは少し違う気がする

そんな経験、あると思います。

一方で、

* 簡単にソロをコピーしてしまう人

* コード進行をすぐ当ててしまう人

* 初めて聴いた曲にも、自然にアドリブを乗せられる人

もいますよね。

ここで大事なのは、

> 🧠 感覚ではなく、理論を"武器"にすれば、耳コピはそこまで難しくない

ということです。

耳コピが"センスの勝負"に見えるのは、

* 何を手がかりにしているのかが言語化されていない

* 本人も「なんとなくこうかな」と感覚でやっている

からです。

ここでは、その「なんとなく」を手順と言葉にしてしまおう、というのがテーマです。


2) 結論:耳コピのコツは「キーを見つける」こと

耳コピの正体を、一言でまとめるとこうなります。

> 🎯 耳コピのコツは「キーを見つける」こと。

キーさえ分かれば、その曲で使われている

* コード

* メロディ

* ソロの音使い

に対して、「だいたいこの辺りだろう」という"当たり"をつけることができます。

これが耳コピの正体です。

これを完全に感覚だけでやっている人もいますが、

> キーとダイアトニックコードの理論さえ分かれば、 > 誰でも同じことができるようになります。

最初はうまくいかなくても大丈夫です。この記事とOtoTheoryを使いながら、少しずつ「キーを感じ取る力」を育てていきましょう。


3) 耳コピ4ステップ:ベース → キー → ダイアトニック → 「寄り道」コード

耳コピを理論で説明すると、だいたい次の4ステップになります。

1. 各コードのベース音を聴き、楽器で探して特定する

2. いくつかのベース音から、キーを割り出す

3. キーが分かったら、メジャー or マイナーのダイアトニックでコードを当てていく

4. ダイアトニックから外れるところは、代理コードや"よくある寄り道"を試す

(それでも外れが多ければ、キー自体を疑ってやり直す)

順番に見ていきます。


① 各コードのベース音を聴き、ギターで「同じ音」を探す

最初から「コードの名前」を当てる必要はありません。

まずやることは、とにかく ベース(いちばん低い音)だけに集中することです。

* 1小節ごと、コードが変わるタイミングで

「今、どの低い音に落ち着いているか?」を探ります。

* ここで大事なのは、聴いただけで「これはCだ」と分かる必要はないということです。

やることはシンプルで、

1. 曲を一時停止する or 同じところをループ再生する

2. ギターの6弦や5弦の開放から、1フレットずつ上がりながら

元の曲のベースと同時に鳴らしてみる

3. 「あ、この音だけピッタリ重なるな」というポイントを探す

4. 見つけたフレットの音名は、チューナーアプリやチューナーで確認してOK

こうして、

> 「1小節目は 5弦3フレット(C)っぽい低音、次は 6弦5フレット(A)っぽい…」

というふうに、耳+指板のマッチングでベース音を特定していきます。

この段階では、

> 「厳密に合っているかは少し不安だけど、候補はこの辺」

くらいで構いません。"ベース音の候補"が分かればOK です。

ある意味、ここだけが本当の「耳コピ」の部分と言ってもいいかもしれません。ベースの音さえ拾えるようになれば、あとはキーとダイアトニックなどの理論を使って、かなりの部分を整理しながらコピーしていくことができます。


② ベース音からキーを割り出す(Let It Be & Twist And Shout)

次に、そのベース音の並びからキーを推理していきます。

代表的なヒントはこんな感じです:

#### ✅ ヒント1:曲やセクションの「終止音」に注目する

* 🎵 曲の最後のベース音(終止音)は、キーのルートになっていることが多い

ポップスやロックでは、最後のコード&ベースが

I(トニック)=キーのルート で終わるケースが非常に多いです。

* 🎵 Aメロやサビなど、フレーズが「いったん終わる」瞬間のベース音も、キーのルートであることが多い

ここで、ビートルズの曲を2つ例にしてみます。

##### 例1:Let It Be(キー=Cメジャー)

サビをすごくざっくり書くと、

> C → G → Am → F / C → G → F → C

のような流れで進みます。

* 途中で F(サブドミナント)が出てくるので、

「Fがキーなのでは?」と一瞬思えてしまうのですが…

* Fは「Cメジャースケール」のメンバー(ダイアトニック)だから、出てきても不思議じゃないんだよ。

* よく聴くと、フレーズの「落ち着く場所」や、曲の終わりは C に着地します。

耳で意識してみてほしいのは、

* 歌が一区切りついたとき

* コード進行が「はぁ〜、帰ってきた」と感じるとき

そのときにベースが鳴らしている音は C になっている、という点です。

> F はたくさん出てくるけれど、 > 本当のゴールはいつも C に戻っている > → だからキーは Cメジャー、と考えられる。

F はあくまで「途中で寄る場所(サブドミナント)」で、

最終的な終着点にはなっていないということですね。 ##### 例2:Twist And Shout(キー=Dメジャー)

もう一つ、Cではないキーの例として「Twist And Shout」を見てみます。

ビートルズ版の代表的な進行は、ざっくり言うと:

> D → G → A を中心にした進行(I–IV–V)

になっています。

* 途中で G や A に行きますが、

* フレーズの最後や曲の終わりは D に戻って終わる ことが多いです。

ここでも、

> いろいろなコードが出てきても、 > フレーズの終点として一番よく使われるベース音が > その曲の キーのルートになっていることが多い

というポイントは同じです。

(実際の曲では、こうした基本のI–IV–Vに加えて、ノンダイアトニックなコードや装飾的な動きが入ることもありますが、ここではまず「どこに帰ってくるか」を感じ取ることだけを目標にしましょう。)

#### ✅ ヒント2:ベース音をスケールに並べてみる

もうひとつの視点は、

> 「拾えたベース音が、どのメジャースケール/ナチュラルマイナースケールに > いちばんきれいに収まるか?」

を考えることです。

例:ベースが C, G, A, F を繰り返しているなら

* Cメジャースケール:C D E F G A B

* その中に、C / G / A / F はすべて含まれている

→ 「これはキーCメジャーの可能性が高そうだな」と考えられます。

完璧に当てようとしすぎなくて大丈夫です。

まずは

> 「この曲は Cメジャーっぽい な」 > 「この曲は Fメジャーっぽい な」

といった仮のキー候補(仮説)を立てることが大事です。

そのうえで、ダイアトニックや「寄り道」コードを使って

少しずつ答え合わせをしていけばOKです。


③ キーが分かったら、メジャー/マイナーのダイアトニックでコードを当てる

キーの仮説が立ったら、次は

> 「この曲はメジャー側か、マイナー側か?」

をざっくり判断して、ダイアトニックコードを使って当たりをつけていきます。

* 明るく前向きな曲調なら → まずは メジャースケールのダイアトニック

* ちょっと暗め・切ない感じなら → ナチュラルマイナーのダイアトニック から試す

…と書くと簡単そうですが、

* メジャーなのに切ない曲

* マイナーなのに疾走感のある曲

もたくさんあります。

そこで覚えておくと便利なのが、平行調という考え方です。

* Cメジャー:C D E F G A B

* Aナチュラルマイナー:A B C D E F G

実はこの2つは、「使っている音(ダイアトニックのメンバー)」がまったく同じです。

こうした関係を平行調(パラレルではなく"相棒"みたいな関係)と呼びます。

つまり、

> 「この曲、CメジャーかAマイナーかよく分からない…」

という場合でも、

> とりあえず Cメジャー(=Aマイナー)のダイアトニックチームを使えば、 > 音そのものは合ってくれる

という安心感があります。

OtoTheoryの「コードを探す(Find Chords)」でも、

CメジャーとAマイナーは、基本的に同じダイアトニックが表示されます。

なので、「明るい/暗い」の判定に自信がなくても OK で、

まずはどちらか一方を選んで、実際に鳴らしながら確かめてみてください。

例えば、キーCメジャー(=Aマイナー)だと仮定したら:

* Cメジャースケール:C D E F G A B

* ダイアトニックコード:C, Dm, Em, F, G, Am, Bdim

先ほど拾ったベース音

(例:C, A, F, G …など)に対して、

* Cのとき → Cか、たまにAmかFかも?

* Aのとき → Amがまずは第一候補

* Fのとき → Fを当ててみる

* Gのとき → Gを当ててみる

というふうに、「そのキーのチーム(ダイアトニック)から優先的に当てていく」イメージです。


④ ダイアトニックから外れるところは「代理コード」と「定番の寄り道」を疑う

ダイアトニックだけで最後まで説明できる曲も多いですが、

現実の曲では、ところどころ ダイアトニックから外れるコード(ノンダイアトニック)も出てきます。

ここで役に立つ考え方が、大きく2つあります。

1. 代理コード(サブスティテュート)

* 似た役割を持つコード同士を入れ替えて使う

* 例:C の代わりに Am(どちらもトニック系)

* 例:F の代わりに Dm(どちらもサブドミナント系)

→ 「ダイアトニック内」での入れ替えが中心

2. 定番の「寄り道」コード

* 一時的に別のコードを強調する セカンダリードミナント

* 平行調などから1〜2音借りてくる 借用和音(モーダルインターチェンジ)

* 一部のセクションだけ、別のキーに近づく「部分的な転調」

この記事では、これらの細かい専門用語を覚える必要はありません。

大事なのは、

> 「ダイアトニック表にないコードにも、ちゃんと"パターン"がある」

ということだけです。

耳コピのときには:

1. まずはダイアトニックで当ててみる

2. ちょっと違うなと思ったら、

近い役割の代理コード(C⇔Am、F⇔Dmなど)も試してみる

3. それでもどうしても当たらないコードが多いなら、

* そもそものキーの仮説が違う

* その部分だけ「寄り道コード」や小さな転調が入っている

可能性を疑って、もう一度キー探しに戻る

この「キーを見直して、ダイアトニック→代理コード→寄り道コードで再チャレンジする」という流れを何度か繰り返すと、

耳コピの精度とスピードがぐっと上がっていきます。

(セカンダリードミナントや借用和音については、別の記事でゆっくり掘り下げていきます。)


4) 耳コピが上手くなると、アドリブと作曲も同時に伸びる

ここまでやってきたことをまとめると、耳コピの練習はそのまま:

* キー感覚のトレーニング

→ ベース&終止音からキーを感じ取る力

* ダイアトニックの実戦練習

→ 「このキーなら、このチームからコードを選べばいい」が体に入る

* フレーズの"度数パターン"の収集

→ 後で自分のメロディやソロに再利用できる

に繋がっています。

結果として、

* 即興で弾くときに

「このキーなら、この音域が安全そうだな」が直感的に分かる

* 作曲するときに

「あの曲のあの雰囲気を、今のキーでやってみよう」が理論的にできる

* 好きなアーティストの"らしさ"を

自分の音楽の中に取り込める

ようになっていきます。

> 耳コピは「完コピ大会」ではなく、 > 自分の音楽語彙を増やすトレーニングだと考えてみてください。

5) OtoTheoryでできる「耳コピサポート」

OtoTheoryは、耳コピの全部の答えを教えるアプリではありません。

大事な「キーを見つける」部分は、あえてユーザー自身の耳の訓練に任せています。

そのうえで、キーに当たりがついてから、こんなふうにサポートしてくれます。


① キーが分かったら「コードを探す」へ

1. 耳コピで「たぶんキーは Cかな?Amかな?」という仮説が立ったら、

OtoTheoryの 「コードを探す(Find Chords)」 を開きます。

2. そのキーに対して、

* メジャースケール もしくは

* ナチュラルマイナースケール

のどちらか基本となるほうを選びます。

3. すると、そのキーの

* ダイアトニックコード(コードのチーム)と

* フレットボード上の スケールトーン

が表示されます。

まずは、このダイアトニックコードを使って、

耳で拾ったコードを1つずつ当てはめてみてください。

さらに、「代理コード」の表示があれば、

そこから似た役割のコード候補も確認できます。

* 「ダイアトニックではFだけど、この場面はDmのほうがしっくりくるな」

* 「Cの代わりにAmで、ちょっと切ない雰囲気にしてるのかも」

といった気づきが得られます。


② メロディやソロはスケールトーンから探す

同じ画面のフレットボードには、選んだスケールのスケールトーンが表示されています。

* まずは、メロディやソロを

スケールトーンのどれかを使って探してみる

* 弾きながら、「ここまではスケールに収まっているな」「この1音だけ少し外れているな」

といった感覚をチェックする

多くの曲では、

> メロディやソロの大部分は、 > その曲のキーのスケール上の音になっています。

もしスケールトーンだけではどうも合わない場合は、

* キーの仮説を見直すか

* 同じキーの中で、別のスケール(例:ペンタトニック、モードなど)を選び直して試してみてください。


③ 「コードは少し拾えたけどキーが分からない」ときは「コード進行」へ

耳コピをしていると、こんな状態になることもあります。

* コードは C, G, Am, F っぽいところまでは分かった

* でも、この曲のキーとスケールが自信を持って言えない

そんなときは、OtoTheoryの 「コード進行(Chord Progression)」 を使います。

1. 分かった範囲で、コード進行を入力する

2. 「分析」ボタンを押す

3. アプリが、その進行に合いそうな キーとスケールの候補 を提案してくれます

これをヒントにしながら、

* 自分の耳で感じたキーの仮説

* アプリが出したキー候補

を照らし合わせていくと、

徐々に「キーの探し方の勘」が鍛えられていきます。


6) まとめ:耳コピの"感覚"を、理論で再現可能にする

* 耳コピのコツは、「まずキーを見つけること」

* キーが分かれば、メジャー/マイナーのダイアトニックからコード候補を出せる

* ダイアトニックから外れるところは、代理コード定番の寄り道コード、そしてキーの見直しで対応できる

* 感覚だけに頼るのではなく、理論を道具・武器として使うことで、耳コピはぐっとラクになる

* OtoTheoryは、

* キーの仮説を立てたあとの「ダイアトニック/代理コード/スケールの確認」

* 逆に、コードからキーを推測する「コード進行の分析」

を通じて、耳コピを強力にサポートしてくれる

次のステップとして:

1. 好きな曲を1つ決めて、まずはベース音だけ耳コピしてみる

2. ベースの並びと終止音から、キーの仮説を立てる

3. OtoTheoryでそのキーを選び、

「コードを探す」「コード進行」を使って答え合わせをしてみる

これを何曲か繰り返していくと、

「キーが見つかる=ほぼコピーができたも同然」という感覚が

だんだん実感として分かってくるはずです。


次のステップ