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耳コピの科学

理論を"武器"にすれば、耳コピはもっとラクになる

5min更新日 2026-02-23記事 7

ここまでの記事で、度数コードキースケールダイアトニックを学んできました。今回は、それらの知識を実戦に投入します。テーマは耳コピ──好きな曲を聴いて、自分で再現する技術です。


🎯 耳コピのコツは、たった1つ──「キーを見つける」こと

耳コピが得意な人を見ると、「才能が違う」と思いがちです。でも実は、彼らがやっていることの多くは理論に基づいた推理です。

その中心にあるのが:

まずキーを見つける。キーさえ分かれば、コードもメロディも「当たり」がつけられる。

なぜなら、キーが分かれば:

* ダイアトニックコード(コードのチーム)が分かる → コード候補が7つに絞れる

* スケールが分かる → メロディやソロの音が12音→7音に絞れる

* トニック・サブドミナント・ドミナントの役割が分かる → 「次にどのコードが来そうか」の予測ができる

つまり、ここまで学んできた理論がすべて耳コピの武器になるのです。


👂 実践──耳コピ4ステップ

Step 1: ベース音を聴く

最初から「コード名」を当てる必要はありません。まず集中すべきはいちばん低い音(ベース音)だけです。

やり方はシンプル:

1. 曲をループ再生する

2. ギターの6弦・5弦を開放弦から1フレットずつ上げながら、曲と同時に鳴らす

3. 「この音だけピタッと重なる」というポイントを探す

「絶対音感」は必要ありません。曲と楽器を同時に鳴らして、合う音を探す──それだけです。

Step 2: ベース音からキーを推理する

いくつかのベース音が拾えたら、次はキーの候補を立てます。手がかりは2つ:

手がかり①: 曲やフレーズが「帰ってくる」音に注目する キーの記事で「キーとは曲の重力の中心」と学びました。曲の最後やサビの終わりでいちばん「落ち着く」ベース音──それがキーのルートである可能性が高いです。

たとえばビートルズの〈Let It Be〉。コード進行に F がたくさん出てきますが、フレーズが落ち着く場所、曲の最後はいつもC に着地します。だからキーは F ではなくCメジャー。F はあくまで「途中で寄る場所」(サブドミナント/ミッドフィルダー)です。

手がかり②: ベース音をスケールに当てはめてみる

拾ったベース音が C, G, A, F だとしたら、Cメジャースケール(C D E F G A B)にすべて収まります。→ 「キーはCメジャーかな?」という仮説が立てられます。

完璧に当てる必要はありません。「たぶんこのキーだろう」という仮説を立てることが大事です。

🤔 ここで思い出してほしいこと──キーは「正解」ではなく「解釈」

キーの記事で、「キーに唯一の正解があるわけではない」という話をしました。耳コピでも、この考え方はとても大切です。

たとえば、ある曲を「Cメジャー」と解釈する人もいれば、「Aマイナー」と解釈する人もいる。プロのミュージシャン同士でも意見が分かれることは珍しくありません。

キーは曲の中に"埋まっている正解"ではなく、あなたが分析のために"使う道具"です。

「この曲のキーをCメジャーと仮定すると、コード進行がこう説明できる」──これが正しい使い方。仮説を立てて、うまく説明できれば採用する。うまくいかなければ別のキーで試す。

だから、Step 2 で「キーが分からない」と悩む必要はありません。間違っていたら Step 4 で見直せばいい。キーを「探し当てる」のではなく、「自分で設定して試す」──この姿勢が耳コピをぐっとラクにしてくれます。

Step 3: ダイアトニックチームでコードを当てる

キーの仮説が立ったら、ダイアトニックコードの出番です。

Cメジャーだと仮定したら、チームは: C, Dm, Em, F, G, Am, Bdim

Step 1 で拾ったベース音に、チームの中から当てはめていきます:

* ベースがC → まずはCを試す

* ベースがA → まずはAmを試す

* ベースがF → まずはFを試す

* ベースがG → まずはGを試す

ここで平行調の知識も役立ちます。「CメジャーかAマイナーか迷う」場合でも、同じ7つの音を使っているので、どちらを選んでもダイアトニックチームはほぼ同じ。安心して進めてOKです。

ポイントは「チームの中から優先的に試す」こと。12個のコードから選ぶのと、7個から選ぶのでは、効率がまったく違います。

Step 4: 合わないコードがあったら──キーを見直す

ダイアトニックだけで最後まで説明できる曲も多いですが、現実の曲ではチームの外のコードが出てくることもあります。

そんなときは:

1. まずは代理コードを試してみる──似た役割を持つコード同士は入れ替えが効きます(CとAmは似た役割、FとDmも似た役割)

2. それでも合わなければ、キーの仮説自体を見直す──キーは「解釈」なので、別のキーで試し直すのは自然なことです

3. その部分だけ一時的にキーが変わっている(部分転調)の可能性もある

大事なのは、「ダイアトニックに無いコードにもパターンがある」ということ。代理コードの仕組みや使い方については、今後の記事で詳しく扱っていきます。


🎛️ OtoTheoryで耳コピを体験する

OtoTheoryは、耳コピの答えを全部教えるアプリではありません。「キーを見つける」部分は、あえてあなた自身の耳に任せています。でも、キーの仮説が立ったら、ここから先を強力にサポートします。

* コード進行ビルダー:キーとスケールを選ぶと、ダイアトニックコードが選択肢に表示されます。耳で拾ったコードを並べて再生すれば、「本当にこの進行で合っているか」を耳で確かめながら検証できます

* キー&スケール分析:コード進行を入力して分析すると、その進行に合いそうなキーとスケールの候補を提案してくれます。「コードはなんとなく分かるけどキーが分からない」というときに、あなたの耳の仮説と照らし合わせてみてください

* フレットボード表示:選んだスケールの音がフレットボード上に表示されます。メロディやソロを探すとき、「この辺りの音が安全」という道が視覚的に見えるので、12音を総当たりする必要がなくなります


📝 耳コピで「自分だけの理論」を作っていく

耳コピを続けていると、教科書には載っていない自分だけの発見が増えていきます。

* 「このアーティスト、サビの前にいつも同じようなコードの動きをするな」

* 「シティポップの曲って、この辺のコードの組み合わせが多い気がする」

* 「この手のバラードは、だいたいこういう流れで終わるな」

こうした気づきには、正式な名前がないことも多い。でも、あなたが気づいて、言葉にできた時点で、それはもう「自分にとっての理論」です。

最初の記事で、「音楽理論とは、感覚を言葉にすること」と書きました。理論は誰かが作った教科書の答えではありません。音楽を言語化して、再現できる形にしたもの──それが理論です。

教科書に載っているパターンも、もともとは誰かが「あれ、このパターンよく出てくるな」と気づいたところから始まっています。耳コピは、まさにその「気づく力」を鍛えるトレーニング。続けるほど、あなたの音楽の引き出しが増えていきます。


✅ まとめ

耳コピのコツ=キーを見つけること。キーさえ分かれば、理論が道案内をしてくれる。

* Step 1: ベース音を聴く(曲と楽器を同時に鳴らして合う音を探す)

* Step 2: ベース音からキーを推理する(「帰ってくる音」と「スケールへの当てはめ」)

* キーは「正解」ではなく「解釈」。分析のために自分で設定し、試す道具

* Step 3: ダイアトニックチームでコードを当てる(7つの候補から優先的に試す)

* Step 4: 合わなければ代理コードを試す、またはキーを見直す

耳コピは自分の音楽語彙を増やすトレーニングです。たくさんコピーするのもいいですし、あえて「完コピ」を目指すのも大きな意義があります。好きな曲を分析するほど、「あの雰囲気を自分の曲でも使いたい」が理論的にできるようになっていきます。自分で気づいたパターンを言葉にできたら、それがもうあなたの理論です。
次の記事では、ダイアトニックチームを使って実際に曲を組み立てる──コード進行を学ぼうに進みます。