耳コピ(Ear Training / Ear Copying)とは、曲を聴いて、自分の耳だけでコードやメロディを再現する技術です。
ここまでの記事で、度数、コード、キー、スケール、ダイアトニックを学んできました。今回は、それらの知識を実戦に投入します。
🎯 耳コピのコツは、たった1つ──「キーを見つける」こと
耳コピが得意な人を見ると、「才能が違う」と思いがちです。でも実は、彼らがやっていることの多くは理論に基づいた推理です。
その中心にあるのが:
まずキーを見つける。キーさえ分かれば、コードもメロディも「当たり」がつけられる。
なぜなら、キーが分かれば:
* ダイアトニックコードが分かる → コード候補が7つに絞れる
* スケールが分かる → メロディやソロの音が12音→7音に絞れる
* トニック・サブドミナント・ドミナントの役割が分かる → 「次にどのコードが来そうか」の予測ができる
つまり、ここまで学んできた理論がすべて耳コピの武器になるのです。
👂 実践──耳コピ4ステップ
Step 1: ベース音を聴く
最初から「コード名」を当てる必要はありません。まず集中すべきはいちばん低い音(ベース音)だけです。
やり方はシンプル:
1. 曲をループ再生する
2. ギターの6弦・5弦を開放弦から1フレットずつ上げながら、曲と同時に鳴らす
3. 「この音だけピタッと重なる」というポイントを探す
「絶対音感」は必要ありません。曲と楽器を同時に鳴らして、合う音を探す──それだけです。キーボードなら左手で低い鍵盤を1つずつ試してください。
コツは、ドラムのキック(バスドラム)と一緒に動いている低い音に耳をすませること。イヤホンやヘッドホンを使うと、ベース音が聴き取りやすくなります。
Step 2: ベース音からキーを推理する
いくつかのベース音が拾えたら、次はキーの候補を立てます。手がかりは2つ:
手がかり①: 曲やフレーズが「帰ってくる」音に注目する キーの記事で「キーとは曲の重力の中心」と学びました。曲の最後やサビの終わりでいちばん「落ち着く」ベース音──それがキーのルートである可能性が高いです。手がかり②: ベース音をスケールに当てはめてみる聴いてみよう: スティーヴィー・ワンダーの〈Isn't She Lovely〉を思い出してください。あのハーモニカのイントロから始まるこの曲は、Eメジャーキー。フレーズが繰り返しEに着地するのを聴くと、「ここが家だな」という感覚がつかめるはずです。
拾ったベース音が C, G, A, F だとしたら、Cメジャースケール(C D E F G A B)にすべて収まります。→ 「キーはCメジャーかな?」という仮説が立てられます。
完璧に当てる必要はありません。「たぶんこのキーだろう」という仮説を立てることが大事です。
🤔 ここで思い出してほしいこと──キーは「正解」ではなく「ものさし」
キーの記事で、「キーに正解はない」という話をしました。耳コピでも同じです。ある曲を「Cメジャー」と解釈する人もいれば、「Aマイナー」と解釈する人もいる。プロのミュージシャン同士でも意見が分かれることは珍しくありません。
キーは曲の中に"埋まっている正解"ではなく、あなたが分析のために"使うものさし"です。
「この曲のキーをCメジャーと仮定すると、コード進行がこう説明できる」──これが正しい使い方。仮説を立てて、うまく説明できれば採用する。うまくいかなければ別のキーで試す。「探し当てる」のではなく「自分で設定して試す」──この姿勢が耳コピをぐっとラクにしてくれます。
Step 3: ダイアトニックチームでコードを当てる
キーの仮説が立ったら、ダイアトニックコードの出番です。
Cメジャーだと仮定したら、チームは: C, Dm, Em, F, G, Am, Bdim
Step 1 で拾ったベース音に、チームの中から当てはめていきます:
* ベースがC → まずはCを試す
* ベースがA → まずはAmを試す
* ベースがF → まずはFを試す
* ベースがG → まずはGを試す
曲と一緒に鳴らして「明るい感じ」ならメジャー、「暗い感じ」ならマイナーを選びましょう。コードの記事で学んだ「3度の違い」を、ここで耳で判断します。
ここで平行調(Relative Key)の知識も役立ちます。「CメジャーかAマイナーか迷う」場合でも、同じ7つの音を使っているので、どちらを選んでもダイアトニックチームはほぼ同じ。安心して進めてOKです。
ポイントは「チームの中から優先的に試す」こと。12個のコードから選ぶのと、7個から選ぶのでは、効率がまったく違います。
Step 4: 合わないコードがあったら──キーを見直す
ダイアトニックだけで最後まで説明できる曲も多いですが、現実の曲ではチームの外のコードが出てくることもあります。
そんなときは:
1. まずはキーの仮説自体を見直す──キーは「ものさし」なので、別のキーで試し直すのは自然なことです
2. それでも合わなければ、その部分だけ一時的にキーが変わっている(部分転調)の可能性もある
「ダイアトニックに無いコードにもパターンがある」ということだけ、今は覚えておいてください。同じ役割のコード同士を入れ替える代理コード、チームの外から一時的にコードを借りてくる借用和音(ノンダイアトニックコード)、ベース音だけを変えるオンコード──これらの仕組みは、この先の記事で順番に学んでいきます。今は「合わないコードがあっても焦らなくて大丈夫」と思っておけばOKです。
🎛️ OtoTheoryで耳コピを体験する
OtoTheoryは、耳コピの答えを全部教えるアプリではありません。「キーを見つける」部分は、あえてあなた自身の耳に任せています。でも、キーの仮説が立ったら、ここから先を強力にサポートします。
* テキストインポート:AIで調べたコード進行をインポートすると、OtoTheory がキーとスケールを自動提案。「自分の耳で立てた仮説」と照らし合わせて、合っているかどうかを確認できます
* コード進行ビルダー:キーとスケールを選ぶと、ダイアトニックコードが選択肢に表示されます。耳で拾ったコードを並べて再生すれば、「本当にこの進行で合っているか」を耳で確かめながら検証できます
* フレットボード表示:選んだスケールの音がフレットボード上に表示されます。メロディやソロを探すとき、「この辺りの音が安全」という道が視覚的に見えるので、12音を総当たりする必要がなくなります
試してみよう: 好きな曲のベース音を2〜3個拾ったら、OtoTheory でキーを設定してダイアトニックコードを表示させてみてください。「自分の耳で拾った音」と「理論が示すチーム」が一致する瞬間──それが耳コピの醍醐味です。
📝 耳コピで「自分だけの理論」を作っていく
耳コピを続けていると、教科書には載っていない自分だけの発見が増えていきます。
* 「このアーティスト、サビの前にいつも同じようなコードの動きをするな」
* 「シティポップの曲って、この辺のコードの組み合わせが多い気がする」
* 「この手のバラードは、だいたいこういう流れで終わるな」
こうした気づきには、正式な名前がないことも多い。でも、あなたが気づいて、言葉にできた時点で、それはもう「自分にとっての理論」です。
最初の記事で、「音楽理論とは、感覚を言葉にすること」と書きました。教科書に載っているパターンも、もともとは誰かが「あれ、このパターンよく出てくるな」と気づいたところから始まっています。耳コピは、まさにその「気づく力」を鍛えるトレーニングです。✅ まとめ
耳コピのコツはキーを見つけること。キーさえ分かれば、ダイアトニックコードでコード候補が7つに絞れ、スケールでメロディの音が7音に絞れる。理論は耳コピの最強の武器になる。
* Step 1: ベース音を聴く(曲と楽器を同時に鳴らして合う音を探す)
* Step 2: ベース音からキーを推理する(「帰ってくる音」と「スケールへの当てはめ」)
* キーは「正解」ではなく「ものさし」。自分で設定し、試す道具
* Step 3: ダイアトニックチームでコードを当てる(7つの候補から優先的に試す)
* Step 4: 合わなければ代理コードを試す、またはキーを見直す
耳コピは自分の音楽語彙を増やすトレーニングです。好きな曲を分析するほど、「あの雰囲気を自分の曲でも使いたい」が理論的にできるようになっていきます。
📖 参照コンテンツ
この記事の作成にあたり、以下の情報源をもとに理論的な正確性と楽曲例の事実確認を行いました。
耳コピ・キー判定の解説* How to Find the Key of a Song – JustinGuitar — ベース音からキーを特定する実践的手順
* Ear Training Exercises – teoria.com — インターバル聴き取りのインタラクティブ練習
* Ear Training 101 – Berklee Online — 耳コピの基本的なアプローチと練習方法
* The Fifth Approach (V-I Resolution) – StudyBass — ドミナント→トニック解決の聴き取り方
楽曲分析* Isn't She Lovely – Wikipedia — Eメジャーキー、スティーヴィー・ワンダーの代表曲
* Isn't She Lovely Chords – National Guitar Academy — Eメジャーキーのコード進行解説
次の記事では、ダイアトニックチームを使って実際に曲を組み立てる──コード進行を学ぼうに進みます。

