1) なぜキーを知ると音楽が見えるのか?
好きな曲を聴いていて、「なんか落ち着く」「ここで終わるとスッキリする」と感じたことはありませんか?
それはキー(調)の"重力"が働いているからです。
キーは、その曲の中心となる音(主音)を決めます。すべてのコードやメロディは、この主音を軸に"帰る場所"を感じながら動いています。
例:Cメジャーの曲では、C(ド)が主音。コード進行が C→Am→F→G→C と流れると、最後のCで「帰ってきた」という安心感が生まれます。
これを理解すると、耳コピや作曲のときに「この曲の中心はどこか」を特定できるようになります。
🎙️ ポールが感じていた"帰る場所"
> "When you're writing a song, you need a home base, a key that everything comes back to." > (曲を書くときは、全てが戻ってくる"本拠地"、つまりキーが必要なんだ。) > — Paul McCartney(複数のインタビューで言及)ビートルズの曲の多くは、シンプルなコード進行なのに心地よさがあります。
例えば〈Let It Be〉はCメジャー。Cから始まって、最後にCに戻ることで"完結"の感覚を作っています。
彼らは感覚で"帰る場所"を掴んでいましたが、理論で言葉にすると、それがキー(主音)だと説明できます。
2) キー=音楽の"重力"
地球に重力があるように、音楽にもキーという重力があります。
* 主音(トニック):曲の中心となる音。これが"家"。
* 他のコードや音:主音に引き寄せられながら、時々離れて、また戻る。
この"引き寄せる力"を理解すると:
- 耳コピ:「この曲の主音はどこ?」を特定できる
- 作曲:「終わり方がスッキリしない」を解決できる
- アドリブ:「この音で終わると気持ちいい」が分かる
3) キーを見つける最強の方法4ステップ
キーを特定することは、曲の「設計図」を手に入れるようなものです。以下の4ステップで、耳コピの精度を飛躍的に高めましょう。
ステップ1:曲の「着地点(最後のコード)」を探す
理論的正しさ:★★★★★(最重要)多くの曲は、キーの主音(トニック・コード)で終わることで、聴き手に「物語が終わった」「家に帰ってきた」という解決感(終止感)を与えます。
* 実践テクニック:
1. 曲の一番最後のベース音を、ギターやピアノで探します。
2. その音が「C」なら、その上で「Cメジャー」と「Cマイナー」を鳴らしてみます。
3. 曲の余韻と響きが一致した方が、その曲のキーである可能性が極めて高いです。(例:Cメジャーが合えば、キーはCメジャー)
ステップ2:曲の「出発点(最初のコード)」を確認する
理論的正しさ:★★★★☆(強力)「家(主音)」から物語が始まることが多いように、曲の最初のコードも主音である可能性は非常に高いです。
* 確度アップ:ステップ1(最後のコード)と、このステップ2(最初のコード)が同じであれば、そのコードがキーである確率は90%以上と言っていいでしょう。「家から出発して、家に帰ってきた」という構成が明確になるからです。
ステップ3:最強の「重力(G→Cの流れ)」を感じる
理論的正しさ:★★★★★(超強力)これはプロも使う最も強力なテクニックの一つです。音楽には「緊張→解決」という強い流れがあり、キー(例:C)の5度上のコード(例:G)からキー(C)に戻る時、最も強い「解決感=重力」が働きます。(これはセクション5のG→Cの流れと同じです)
* 実践テクニック:
曲中で最も「あ、解決した!」「スッキリした!」と感じる瞬間を探します。サビの終わりやAメロの最後によく使われます。
その「解決した先」のコード(例:G→CのC)が、キーの主音である可能性は絶大です。
ステップ4:「メロディの軸」で裏付けを取る
理論的正しさ:★★★★☆(最終確認)コードだけでは確信が持てない場合、メロディは強力な裏付けとなります。メロディは多くの場合、キーの「軸となる音(主音)」に向かって進みます。
* 確認ポイント:
* 曲中で何度も繰り返される、印象的な音は何か?
* 歌のフレーズの「着地点」となる音は何か?
* それらの音が、ステップ1〜3で見つけたキーの主音(例:キーがCなら「ド」の音)と一致しているかを確認しましょう。
4) メジャーとマイナーの違い
同じ主音でも、メジャーとマイナーでは雰囲気が変わります。
| キー | 主音 | 雰囲気 | 代表的な曲 |
|---|---|---|---|
| Cメジャー | C(ド) | 明るい、安心感 | 〈Let It Be〉 |
| Cマイナー | C(ド) | 切ない、内省的 | 多くのバラード |
- メジャー:最後のコードが「明るい」感じ(例:C、G、F)
- マイナー:最後のコードが「しっとり」感じ(例:Am、Dm、Em)
ただし、同じコードでもメロディや配置で感じが変わるので、耳で確かめるのが一番です。
5) コード進行とキーの関係
キーが決まると、そのキーに"合うコード"が自動的に決まります。
例:Cメジャーの場合
- C(主音・家)
- Dm、Em(副次的)
- F、G(動きを作る)
- Am(切なさ)
これらのコードを組み合わせると、自然な流れが生まれます。
→ これは「ダイアトニック」という概念です(詳しくは別記事で)。
重要なのは、主音(C)に戻ると安定感が出ること。
G→C のように、5度上のコードから主音に戻る流れ(ドミナント→トニック)は、特に強い"帰る力"を持っています。
6) キーを知るとできること
耳コピが速くなる
「この曲のキーはCメジャー」と分かれば、使われているコードの候補が絞れます。
最初から全部のコードを探す必要がなくなり、キーに合うコードを中心に探せばいいと分かります。
作曲で迷わなくなる
「この曲のキーはAマイナー」と決めると、使うコードの方向性が見えます。
終わり方がスッキリしないときは、主音(Aマイナー)に戻ると解決することが多いです。
アドリブで"外さない"
キーが分かると、そのキーのスケール(音階)を使えば"外さない"アドリブができます。
例:Cメジャーの曲なら、Cメジャースケール(ドレミファソラシ)を使えば、どのコード上でも響きが合います。
7) アプリで体験しよう
OtoTheoryでは、キーの"重力"を体感できます:
- コード進行を作る:主音から始まって、主音に戻る流れを試す
- キーを変える:同じ進行を別のキーで鳴らして、雰囲気の違いを感じる
- スケールと合わせる:キーが決まると、使えるスケールが自動的に分かる
感覚で「気持ちいい」と思っていたものを、理論で説明できるようになります。
8) まとめ
- キー=曲の中心音(主音)。すべての音がこの音に"帰る"。
- キーを見つける:最後のコード、繰り返し出る音、コード進行の"帰る場所"。
- メジャーとマイナー:同じ主音でも、雰囲気が変わる。
- キーを知ると:耳コピ・作曲・アドリブがすべて楽になる。
音楽の"重力"を感じ取れるようになると、理論が実践に直結します。
次のステップ
- キーに合うコードの仕組みを知りたい → 「ダイアトニックとは?」
- アドリブで使える音のまとまりを知りたい → 「スケールとは?」
- コードの基礎を復習したい → 「コードとは?」

